宝物のような一瞬

何の脈略もなく、ふいに思い出したのですが…

24歳の冬にこんなことがありました。
大阪への転勤が決まった上司の送別会を終えて、
大勢の同僚、その上司と、東京駅に向かう途中でした。

上司が、道端の祠(ほこら)の前で手を合わせたのです。
「これで、よし」と上司が言ったので、
「何を祈っていたんですか?」と尋ねました。すると、
「おすましちゃん(私の会社での当時のあだ名)が
幸せなお嫁さんになれますように、って祈ったんだよ」と。

転勤する自分のことを祈っているとばかり思っていた私は
思いがけない返答に驚いて、胸がいっぱいになりました。
何か言ったら泣いてしまいそうで、そのまま沈黙してしまいました。

当時、私は大失恋のあとでメソメソと泣いてばかりいたのです。
上司は、そんな私のことを人づてに知って、祈ってくれたのか。
それとも、ぶしつけに質問をする私を適当にかわしただけなのか。
もう20年以上も前のことなのに、記憶の底に決して埋もれることなく、
こうして今も時々、ふいに思い出したりしています。

泣いてばかりの毎日の中で、宝物のような一瞬でした。
あれから上司には葉書1枚書いていません。
心の中で上司に不義理を詫びつつ、しかし、
いただいた宝物を今度は私が誰かにあげられたら、
と思ったりしています。

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