10年ほど前、まだ私がアンガーマネジメントを伝え始めたばかりの頃のことです。
ある企業でのアンガーマネジメント研修が終わった後、
一人の女性が質問にいらっしゃいました。
飼っているペットがずっと吠えていてうるさくてたまらない。
イライラして仕方がない。どうしたら良いのか。
女性からは、怒りと共に苦しみも伝わってきました。
お話をお聴きすると、深い事情が見えてきました。
そのペットは、義理の両親が飼っていた。
義理の両親は先月、二人一緒に高齢者施設に入居した。
ペットは手放すしかない。そこで長男である夫が引き取ることになった。
家に連れてきた日から、ペットは一日中、吠えている。
思い余って夫に相談すると、夫は「なんとかして」の一言だけ。
ペットは、義理の両親に会いたくて吠えているのだろう。
でも、私にはどうすることもできない。どうしたら良いのか。
そこまでお話をされて一息ついた後、
「でも、そのペットが憎いわけではないのです。」
そうおっしゃって、ご自身で気づかれたようでした。
女性は、ペットを思う気持ちをお持ちでした。
会いたい人に会えない寂しさをなんとかしてあげたい。
でも、どうしたら良いのかわからない。
夫に、この気持ちをわかってほしい。夫にも一緒に考えてほしい。
それが、その女性の本当の気持ちでした。
強い怒りは、私たちの本当の気持ちを覆い隠してしまうことがあります。
夫も、両親が施設に入ったことで寂しさを感じているのかもしれない。
週末に時間を取って夫と話し合ってみたいと思う。
女性は、そのようにお話をされていました。
質問にいらしたときとはまるで違う、穏やかな表情でした。
怒りと正面から向き合うと、心の奥にある本当に気持ちが見えてくることがあります。
怒りは、たくさんの気づきを与えてくれる感情なのだと、
私はその時、初めて知ったのです。